正月の読み物は佃煮屋の正ちゃんの物語。長部日出雄『天才監督 木下恵介』(新潮社)。




20051231句(前日までの二句を含む)

December 31122005

 除夜の鐘天から荒縄一本

                           八木忠栄

語は「除夜の鐘」。今年は、この力強い句で締めくくろう。余白師走句会(2005年12月17日)に出句された作品だ。除夜の鐘が鳴りはじめた。人はこのときに、それぞれの思いのなかで「天」を振り仰ぐ。と、天よりするすると「荒縄が一本」下りてきた。むろんイメージの世界の出来事ではあるが、大晦日の夜の感慨のなかにある人ならば、具体的に荒縄が下りてきたとしても、べつだん奇異にも思わないだろう。作者もまた、一本のこの荒縄をほとんど具象物として描き出しているように思われる。そして、そんな荒縄を見上げる人の思いは一様ではないだろう。ある人は天の啓示のようにまぶしく見つめるかもしれないし、またある人は「蜘蛛の糸」のカンダタのように手を伸ばそうとするかもしれない。年を送るその人の胸中がさまざまに反応するわけで、ミもフタもないことを言うようだが、この荒縄に対する姿勢はそのままその人の来し方を象徴することになる。で、かくいう私は、どうするだろうか。きっとポケットに手を入れたまま、茫然と眺めることになるのだろう。体調不良もあったけれど、それほどに何事につけても消極的で傍観的な一年だったような気がする。読者諸兄姉は、如何でしょうか。さきほど冒頭で一度鳴った(鳴らない方もあります、ごめんなさい)のは、知恩院の鐘の音です。ゆっくりと想像してみてください。では、一年間のご愛読に感謝しつつ、新しい年を迎えることにいたします。どうか、みなさまに佳き新年が訪れますように。(清水哲男)




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