G黷ェ句

August 2582005

 汝が好きな葛の嵐となりにけり

                           大木あまり

語は「葛(くず)」で秋。「葛の花」は秋の七草の一つだが、掲句は花を指してはいない。子供の頃の山中の通学路の真ん中あたりに、急に眺望の開ける場所があった。片側は断崖状になっており、反対側の山の斜面には真葛原とまではいかないが、一面に葛が群生していた。そこに谷底から強い風が吹き上がってくると,葛の葉がいっせいに裏返ってあたりが真っ白になるのだ。葛の葉の裏には,白褐色の毛が生えているからである。大人たちはこの現象を「ウラジロ」と言っていて、当時の私には意味がわからなかったけれど、後に「裏白」であると知った。壮観だった。古人はこれを「裏見」と称し「恨み」にかけていたようだが、確かにあれは蒼白の寂寥感とでも言うべき総毛立つような心持ちに、人を落し込む。子供の私にも,そのように感じられたが、嫌いではなかった。「全山裏白」と,詩に書きつけたこともある。ところで、掲句の「葛の嵐」が好きな「汝」とはどんな人なのだろう。この句の前には、「身に入むと言ひしが最後北枕」、「恋死の墓に供へて烏瓜」の追悼句が置かれている。となると、「汝」はこの墓に入っている人のことだろうか。だとすれば、墓は葛の原が見渡せる場所にあるというわけだ。無人の原で嵐にあおられる裏白の葛の葉の様子には、想像するだに壮絶な寂しさがある。それはまた、作者の「汝」に対する心持ちでもあるだろう。「俳句」(2005年9月号)所載。(清水哲男)




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