August 03 2005
サラリー数ふ恋ざかりなる日盛に
高山れおな
季語は「日盛(ひざかり)」で夏。前書に「みずほ銀行西葛西支店」とあり、私はこの支店を知らないけれど、句と合わせると奇妙なリアリティが感じられる。これがたとえば六本木支店だとか麹町支店だと、同じ句との組み合わせでも相当にニュアンスが異なってくる。西葛西のほうに、だんぜん庶民的な生活の匂いがあるからだ。猛暑の昼日中、今宵のデートのために「サラリー」を引き出して数えている図だろう。なにしろ「恋ざかり」なのだからして、残額がちょっと心配になるくらいの多めの額を下ろしたのに違いない。わかりますねえ。これだけ用意すれば足りるだろうと,汗を拭いつつていねいに数えている様子は,微笑ましくもつつましやかで好感が持てる。私がサラリーマンだったころは現金支給だったので、「恋ざかり」の、すなわち独身の男らはたいてい、袋のままに全月給を持ち歩いていたものだ。現在のカップルはかかった費用を割り勘にするのが普通のようだが、昔は食事代やら映画代やらたいていのものは男が払うものと、なんとなく決まっていた。だから、恋愛中の男は目一杯持ち歩かざるを得ないという事情があったし、恋少なき私などは、いちいち銀行の窓口に行くのが面倒臭くて無精を決め込んでいただけの話だが……。それはともかく、割り勘であろうがなかろうが、恋愛には金もかかる。恋愛の情熱や精神についての書物は古来ゴマンとあるけれど、誰か「恋愛の経済学」といったようなテーマで一冊書いてくれないかしらん。『荒東雑詩』(2005)所収。(清水哲男)
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