July 05 2005
輪唱の昔ありけり青嵐
平林恵子
季語は「青嵐」で夏。「輪唱(りんしょう)」と聞いてすぐに思い出すのは、三部輪唱曲のアメリカ民謡「静かな湖畔で」だ。♪静かな湖畔の森の陰から もう起きちゃいかがとカッコウが鳴く……。戦後の一時期には、大いに歌われた。青嵐の季語から見て、作者の頭にもこの曲があったのかもしれない。どんな時代にも人は歌ってきたが、なかで輪唱が盛んだったのは、日本では敗戦から二十年ほどの間くらいだろうか。輪唱は一人では歌えない。その場の誰かれとの、いわば協同作業である。すなわち一人で歌うよりも、みんなで歌うほうが楽しめた時代があったのだ。かつての「歌声喫茶」は輪唱に限らないが、合唱や斉唱を含め、もっぱら複数で歌うことのできる場を提供することで、大ブレークしたのである。対するに、現在流行の「カラオケ」は一人で歌うことがベースになっている。私などにはこの差は、敗戦後の苦しい生活のなかで肩寄せあって生きていた時代とそうでなくなった時代とを象徴しているように思われてならない。戦後の庶民意識は60年を経るうちに、いつしか「みんなで……」から「オレがワタシが……」に完全に変質してしまったということだろう。このことへの評価は軽々には下せないけれど、清々しい青嵐に吹かれて一抹の寂しさと苦さとを覚えている作者には共感できる。俳誌「ににん」(2005年夏号・通巻19号)所載。(清水哲男)
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