July 02 2005
夜店より呼びかけらるることもなし
大串 章
季語は「夜店」で夏。夜店を「冷やかす」と言う。とくに何かを買うというのではなく、ぶらぶらと見て回りながら、その雰囲気を楽しむ。店の人と軽口を叩き合うのも楽しい。作者も冷やかして歩いている。「呼びかけら」れれば、冗談口の一つや二つは交わすつもりでいたのに、しかし「呼びかけらるることもなし」に終わってしまった。思い返せば今宵に限らず、いつだってそうだったなあという苦笑まじりの感慨がわく。私も、呼びかけられないクチだ。不思議なもので、逆にいつも「シャチョーッ」だの「オニーサン」だのと声をかけられる友人もいる。夜店の人からすれば、呼びかけやすいタイプとそうでないタイプの人があるのだろう。たとえ買ってくれそうにはなくても呼びかけて、その場の雰囲気を盛り上げてくれる客が直感的にわかるのだ。そういえば、放送の仕事での街頭インタビューでもそうだった。そのときの私は夜店の主人の立場にあったわけだが、だんだん経験を積んでゆくうちに、マイクを向けても大丈夫な人と駄目な人とが見た目でわかるようになってきた。駄目そうだなと思った人は、まずたいていが何も言ってくれない。たとえしゃべってくれても、面白くなかったり要領を得なかったりする。したがってこちらも能率を考えるから、呼びかけやすいタイプの人だけに近づくことになってしまう。これは何も私に限った話ではなく、ほとんどのインタビュアーやディレクターがそうしているはずだ。テレビやラジオのインタビューに答えている人は、いかにも一般の声を代表しているように聞こえるが、実は一般の人のほんの一部しか代表していない理屈になる。『大地』(2005)所収。(清水哲男)
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