June 25 2005
半袖やシャガールの娘は宙に浮く
三井葉子
手元には「半袖」を季語の項目とした歳時記はないが、当サイトでは「夏シャツ」に分類しておく。作者は詩人。この夏、初めて長袖から半袖にしたときの連想だろう。軽やかな着心地が、身体の浮遊感を呼び起こしたのだ。そういえば、宙に浮いているシャガールの絵の「娘(こ)」も半袖だったと思い出し、半袖を着た軽快感も手伝って、気持ちも自然に若やいだのだった。シャガールの作品は多いので、作者がどの絵の娘を指して詠んでいるのかは不明だ。が、もしかすると絵は特定されておらず、彼の絵に頻出する幻想的な女性たちが醸し出している雰囲気を折り込んだ句かもしれない。人魚のような女性像もそうだが、シャガールの優しい色使いもまた、どちらかといえば女性好みだから、作者の連想には説得力がある。かりに男の作者が女性の半袖姿を見て詠むとしても、おそらくシャガールは出てこないと思う。半袖で思い出した。小学生のとき、雑誌に載っていたイギリス切手の写真に、エリザベス女王の横を向いた半袖姿の肖像画があった。むろんシャツではなく半袖のドレス姿だったのだけれど、思わず私は母に言った。「女王って、すごく太い腕してるなあ」。「女の人は脂肪が多いからだよ」とつまらなそうに母は言い、咄嗟に私は母の腕を盗み見たが、その腕は女王の半分くらいしかない細さだった。「そうかあ、脂肪かあ」と私は口に出し、「きっと美味しいものばかり食べてるからだな」とは口に出さなかった。『桃』(2005)所収。(清水哲男)
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