March 22 2005
サヨナラがバンザイに似る花菜道
正木ゆう子
季語は「花菜(はなな)」で春。「菜の花」のこと。ふつう「サヨナラ」の仕草は片手をあげ、「バンザイ」は両手で表現する。だから「似る」わけはないのだが、そうでもないときがある。たとえば、子供たちの卒業式からの帰り道だ。一面に「花菜」が咲き乱れる道を,いつものように連れ立って帰ってゆく。が、今日は特別の日だ。別れ道で「じゃあね」といつものように片手をあげて別れるのだが、しばらくすると遠くのほうから「サヨーナラーッ」と声がする。見ればいま別れた友だちが、手を振っている。で、こちらも振りかえす。遠ざかりながら何度も手を振りあううちに,最後は双方とも両手をあげて大きく振るようになる。傍目からすれば「バンザイ」の仕草に似てしまうわけだが、当人たちにはあくまでも「サヨナラ」なのだ。いや、たとえ最後まで片手を降っていたとしても,花菜道の明るさが「バンザイ」を想起させるということでもよさそうである。微笑してそんな情景を見ている作者には、しかし「サヨナラ」が「バンザイ」に似ようとも,彼らのこれからの長い人生のことなどがちらと思われて、すっと甘酸っぱいようなほろ苦いようなものが、胸をかすめたことだろう。この「バンザイ」に似た「サヨナラ」で,親しく手を振りあった同士が、もう二度と会わないことだってあるとするならば……。『悠 HARUKA』(1994)所収。(清水哲男)
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