March 08 2005
夜のぶらんこ都がひとつ足の下
土肥あき子
季語は「ぶらんこ」で春、「鞦韆(しゅうせん)」に分類。平安期から長い間大人の遊具だったのが、江戸期あたりからは完全に子供たちに乗っ取られてしまった。春を待ちかねた子供たちが遊んだことから、早春の季語としたのだろう。一茶に「ぶらんこや桜の花を待ちながら」がある。掲句は「夜のぶらんこ」だから、大人としての作者が漕いでいる。小高い丘の上の公園が想像される。気まぐれに乗ったのだったが、ゆったりと漕いでいるうちに、だんだんとその気になってきて、思い切りスゥイングすることになった。ぶらんこには、人のそんな本気を誘い出すようなところがある。「足」を高く上げて漕いでいると、遠くに見える街の灯が束の間「足」に隠れてしまう。その様子を「都がひとつ足の下」と言い止めたところが、スケールが大きくて面白い。女性がひとり夜のぶらんこに乗るといえば、なんとなく曰くありげにも受け取られがちだが、そのような感傷のかけらがないのもユニークだ。だから読者もまた、春の宵の暖かさのなかにのびのびと解放された気持ちになれるのである。ぶらんこを漕ぐといえば、思い出すのはアニメ『アルプスの少女ハイジ』のオープニングだ。彼女は、異様に長いぶらんこに乗っていた。で、あるヒマ人が計算してみたところ、ハイジは上空100メートルくらいを時速68キロで振り子振動をしていたことになるのだそうだ。シートベルトもせずによくも平気な顔をしていられたものだと驚嘆させられるが、それでも彼女には遠い「都」はちらりとも見えなかった。それほどアルプスは雄大なのである(笑)。「読売新聞」(2005年2月12日付夕刊)所載。(清水哲男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|