February 14 2005
虎造と寝るイヤホーン春の風邪
小沢昭一
季語は「春の風邪」。寒かったかと思うと暖かくなったりで、早春には風邪を引きやすい。俳句で単に「風邪」といえば冬のそれを指し、暗い感じで詠まれることが多いが、対して「春の風邪」はそんなにきびしくなく、どこかゆったりとした風流味をもって詠まれるケースが大半だ。虚子に言わせれば「病にも色あらば黄や春の風邪」ということになる。が、もちろん油断は大敵だ。軽い風邪とはいっても集中力は衰えるから、難しい本を読んだりするのは鬱陶しい。作者はおそらくいつもより早めに床について、「イヤホーン」でラジオを聞きながらうとうとしているのだろう。こういうときにはラジオでも刺激的な番組は避けて、なるべく何も考えないでもすむような内容のものを選ぶに限る。「次郎長伝」か「国定忠治」か、もう何度も聞いて中味をよく知っている広沢虎造の浪曲などは、だから格好の番組なのだ。ストーリーを追う必要はなく、ただその名調子に身をゆだねていれば、そのうちに眠りに落ちていくのである。そのゆだねようを指して、「虎造と寝る」と詠んだわけだ。病いの身ではあるけれど、なんとなくゆったりとハッピーな時間が流れている感じがよく出ている。それにつけても、最近めっきり浪曲番組が減ってしまったのは残念だ。レギュラーでは、わずかにNHKラジオが木曜日の夜(9.30〜9.55)に放送している「浪曲十八番」くらいのものだろう。『新日本大歳時記・春』(2000・講談社)所載。(清水哲男)
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