February 09 2005
音速たのし春の午砲の白けむり
原子公平
前書きに「少年時代の思い出 一句」とある。「午砲(ごほう)」は俗に「お昼のどん」と言われ、市民に正午を知らせた号砲だ。明治四年にはじまり、昭和四年サイレンにきりかえられるまで、旧江戸城本丸で毎日正午の合図に空砲を打った。いまのように時計が普及していなかった時代だから、これをアテにしていた人たちは多かったろう。むろん私は知らないのだけれど、はるか年上の原子少年はおもしろがっていたようだ。学校で「音速」を習ったばかりだったのかもしれない。まずその方角に「白いけむり」が上がったのが見え、しばらくしてから「どーん」と音が聞こえてくる。けむりが見えてから音がするまでの間(ま)に、なんとも言えぬおもむきがあった。折しも季節は「春」、のどかな少年期の真昼を回想して、作者はひとり微笑している。「音速」という硬い科学用語も、無理なく句に溶け込んでいる。それもまた、暖かい春ゆえだろう。なお、この午砲は東京・小金井公園のなかにある「江戸東京たてもの園」に保存されている(はずだ。数年前には入り口近くに置いてあった)。もっと大きいものかと思っていたら、意外に小さかったので驚いた。小学生がまたがって遊べるくらいの大きさと言えば、想像していただけると思う。『酔歌』(1993)所収。(清水哲男)
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