January 28 2005
寒き夜や父母若く貧しかりし
田中裕明
昨年末に急逝した作者の主宰誌「ゆう」の二月号が届いた。最後の作品として、掲句を含む二十二句が載せられている。むろん、彼はこの最新号を目にすることはできない。彼はあまり自分の育ちなどについては詠まないできた人という印象があるので、おやっと目が止まってしまった。他のページに「いまはあいにく入院中で、おおかた病院の中にいます」とあるから、この句も病院で詠まれたものだろう。入院という環境が、「家族」を強く意識させたということにもなろうか。とりたてて家族への新鮮な視点があるわけではないけれど、貧しくはあったが、あのころがいちばん良かったかなというつぶやきが聞こえてきそうな句だ。いまの自分よりももっと若かった父母を中心に、「寒き夜」に家族が身を寄せあっている情景は懐かしくも心温まる思い出だ。両親が貧しさと戦う武器は「若さ」のみ。生活の不安や悩みには重いものがあったろうが、子供としての作者にはわかるはずもない。ただ両親の若さによる活力を頼もしく思い、庇護されていることの心地よさだけがあった……。作者とはだいぶ年代が違うのだが、敗戦時に子供だった私たちの世代には、もうこれだけでぐっと来てしまう句だ。なお「ゆう」は、もう一冊「田中裕明主宰追悼号」を出して終刊となる。(清水哲男)
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