日本シリーズは中味が濃かった。シーズン中にもこうであれば必ずファンは戻ってくる。




20041026句(前日までの二句を含む)

October 26102004

 胸さびしゆゑにあかるき十三夜

                           石原八束

語は「十三夜」で秋。陰暦九月十三日(すなわち本日)の夜の月のこと。仲秋の名月(十五夜)に対して「後(のち)の月、後の名月」などとも言う。十五夜の満月が陽性なのに比べて、どちらかと言えば今宵の月は陰性だ。四囲は枯れはじめ、虫の音も途絶えがちになる。しかも大気は澄んでくるから、ひとり月光のみが鮮やかで、句のように寂寥感を増幅する。掲句を見つけて樋口一葉に短編「十三夜」があったことを思い出し、読み返してみた。身分違いの家に懇望されて嫁いだものの、最近では旦那に冷たくされ罵倒され、ついに我慢しきれずに離婚を決意し、子供を置いて実家に戻ってくる女性の話だ。そうとは知らぬ両親は上機嫌で出迎えてくれる。「今宵は舊暦の十三夜、舊弊なれどお月見の眞似事に團子をこしらへてお月樣にお備へ申せし、これはお前も好物なれば少々なりとも亥之助に持たせて上やうと思ふたけれど、亥之助も何か極りを惡がつて其樣な物はお止なされと言ふし、十五夜にあげなんだから片月見に成つても惡るし、……」。「舊弊なれど」とあるから、明治期の東京あたりでは、十三夜の月見の風習は廃れつつあったことがわかる。意を決して離婚の意思を両親に打ち明けた彼女は、しかし子供のために実家に戻るよう父親に説得され、涙顔を袖で隠して人力車に乗った。「さやけき月に風のおと添ひて、虫の音たえだえに物がなしき上野へ入りてよりまだ一町もやうやうと思ふに、……」。ここから劇的なシーンになるのだが、関心のある方は原作でどうぞ。ともかく十三夜は、この句もそうであるように、こうした古風な情緒によく似合う月である。今宵晴れるか。『新俳句歳時記』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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