20040829today句

August 2982004

 椿は実に黒潮は土佐を離れたり

                           米沢吾亦紅

語は「椿の実」で秋。冬に咲く花の鮮やかさとは裏腹に、褐色の椿の実は地味である。濃い緑の葉陰に隠れるように、ひっそりと実っている。通りがかりにたまさか気がつくと、もうこんな季節かと、あらためて月日の流れの早さを感じてしまう。一方で、日本海流とも言う「黒潮」の流れは雄大にして、かつ悠久の時を感じさせる。この繊細と雄渾との対比が、句のミソだろう。しかも作者は、めったに起きない「土佐」の黒潮大蛇行を目撃している。大蛇行とは、原因は不明だそうだが、黒潮の流れが陸地からはるか遠くに離れて行く現象を言う。これまでは、13年に一度くらいの割合で起きてきた。となれば、身近に残ったのは椿の実に象徴されるはかなさであり、ますます秋特有の寂しさが深まったことだろう。実は現在、この珍しい大蛇行現象が起きているのをご存知だろうか。その影響で、紀伊半島東岸から東海にかけては潮位が通常より数十センチ程度上昇し、高潮が起きやすい状態になっており、気象庁では警戒を呼びかけている。だから、今年の台風は余計に危険なのだ。また漁業にも影響が出ていて、東海沖ではシラスやサバが不漁であり、逆に御前崎沖では通常は取れないカツオが取れているという。『花の歳時記・秋』(2004・講談社)所載。(清水哲男)




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