20040824today句

August 2482004

 真夏昼猫がころがすカタン糸

                           二村典子

はもちろん、草木までもが暑さにげんなりとしている「夏真昼」。こういうときにはイの一番に昼寝をきめこんでしまうはずの「猫」が、どうした弾みか、「カタン糸」の糸巻きにじゃれついている。この気まぐれの生気は、かえって作者を鬱陶しくさせているようだ。それにしても、おお ! 懐かしやカタン糸。何十年も目にしなかった言葉だ。私の子供時代には誰でも知っていたカタン糸だが、いつの頃からかまったく目にも耳にもしなくなってしまった。しかし、カタン糸そのものが無くなってしまったわけじゃない。現在でも多少あるにはあるが、大半が工業用として生きているのであり、家庭からはほとんど姿を消してしまった。カタン糸とは何か。カタンは英語のCOTTONが訛ったもので、木綿単糸を数本縒(よ)り合わせたものである。レース編みなどに用いる太手の木綿糸のことを指す場合もあるけれど、普通にはミシン用の縫い糸として用いる細手の木綿糸のことを言う。縒りが強く、糊や蝋で処理してあり、光沢がある。いまはミシンの無い家庭が多いし、あっても滅多に使わなくなった時代だから、カタン糸という言葉も一般的ではなくなってしまった。したがって、子供がカブトムシにミシンの糸巻きを引かせて遊ぶなんてことも、まずないだろう。カタン糸、この言葉を思い出させてくれただけでも、掲句に感謝したい。「俳句」(2004年9月号)所載。(清水哲男)




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