夏休み。どこに行っても子供がいる。うるさかったりするけれど活気があってよろしい。




2004年8月5日の句(前日までの二句を含む)

August 0582004

 缶詰の蜜豆開ける書斎かな

                           下山田禮子

語は「蜜豆」で夏。読書中か、あるいは何か書き物をしているのだろうか。ふっと蜜豆が食べたくなって、冷蔵庫に冷やしておいた「缶詰」を出してきた。人によりけりではあるが、書斎でお八つを食べたりするときには、しかるべき器に入れたり盛ったりしてから食べるのが普通だろう。作者もまた、通常はそうしている。でも、このときにはそれをしないで、書斎で缶詰を開けたのである。つまり、大仰に言えば厨房の作業を書斎に持ち込んだのだ。よほど忙しいのか、ずぼらを決め込んだのか。とにかく日頃とは違う作業を書斎ではじめてみると、やはり違和感を覚えてしまう。汁が飛び散ってはいけないとか、ましてやひっくり返しては大変だとか、つかの間のことにしても、厨房とは違った配慮も必要だからだ。そうすると、いつもは何とも思っていなかった書斎空間が、これまた大仰に言えば異相を帯びて感じられることになった。それが、作者をして「かな」と言わしめた所以であろう。このときの缶詰は、いまどきのように蓋をすっと引き開けるものではなくて、缶切りで開けるタイプのものがふさわしい。食べるのも、器に移し替えずにそのままスプーンで掬うほうが、句にはよく似合う。缶特有の匂いが、ちょっと蜜豆のそれに混ざったりして……。『恋の忌』(2004)所収。(清水哲男)




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