October 10102003

 木守柿妻の名二人ある系図

                           秦 夕美

語は「木守柿(きもりがき)」で秋。代々長くつづいている家だと、寺に行けば過去帳(鬼籍)なるものがある。寺で、檀徒の死者の戒名(法名)、実名、死亡した年月日などを記入しておく帳簿だ。我が家では父が分家初代なので存在しないが、義父が亡くなったときに見たことがある。三百年ほど前からの記録だったと記憶しているが、眺めていると、他人の家のことでもじわりと感慨が湧いてくる。はるか昔から生き代わり死に代わりして、現在まで血がつづいてきたのか。会ったこともないご先祖様のあれこれも想像されて、そこには単なる記録を越えた何かがあった。作者の家には仏壇の抽き出しに、同様の書類が残されてきたという。なかに、後妻○○と記された何人かの女性名がある。むろん最初の妻との死別による再婚もありうるが、なかには「家風に合わぬ」「子なきは去れ」と追い出された先妻のあとの座にすわった女性もいるかもしれない。いずれにしても、家中心の社会、男中心の社会のなかで、犠牲になる女性は多かった。「妻の名二人」のどちらかは、そのような犠牲者だったことはあり得るわけだ。そこには、どんなドラマがあったのだろうか。作者はそんな女たちの怨念を思いながら、次のように書く。「高い梢には夕日のしずくのような赤い実が残されていた。その『木守柿』が私には未練を残しつつ去った女たちの魂のように思えてならなかった」。『秦夕美・自解150句選』(2002)所収。(清水哲男)




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