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August 2982003

 新豆腐切る朝風も揃えて切る

                           村上友子

語は「新豆腐」。新しく収穫した大豆でつくった豆腐のことで、秋季。朝食の仕度を詠んだのかもしれないが、「切る」を強調しているところからすると、豆腐屋の仕事風景と読むほうがしっくりくる。学生時代の宇治の下宿の真向かいに、小さな豆腐屋があった。早朝から店内には湯気が濛々と立ちこめ、夏場は表戸を外して仕事をしていたが、そんなことではほとんど涼しくはなかったろう。大変な仕事だと思っていた。だから、やがて秋風が立ち初めると、少しは人心地がついたのではあるまいか。いつでも商品の豆腐はきれいに切らなければならないが、ようやく涼しい朝風が吹いてきて気分も楽になったので、今朝の豆腐はとくに念入りに切り揃えたと言うのだろう。おまけに、新豆腐だ。朝の風もいっしょに切り揃えるという措辞が、いかにも爽やかに響く。このときの豆腐は、絹ごしよりも固めの木綿豆腐のほうが望ましい。固めだと角もすっきり仕上がるので、それだけ涼味が感じられるからだ。ところで、固めの豆腐といえば佐世保港外の黒島の豆腐が有名だ。最近、その製法をNHKテレビで観た。大豆を手回しの石臼で引いて豆乳を作り、普通ならば煮立てるときにニガリを入れるわけだが、黒島では代わりに海水を加えていた。したがって、出来上がりの味はやや塩辛い。そうして製した豆腐は、映像で見るだけでも、はっきりと固いとわかる。島では正月や祝い事の煮しめに使うそうだから、ちょっとやそっとでは煮崩れたりしないのだ。機会があれば、固め豆腐ファンとしては食べてみたいと思った。『新版・俳句歳時記』(雄山閣出版・2001)所載。(清水哲男)




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