August 1882003

 かの夏の兄が匂わすセメダイン

                           的野 雄

セメダイン
い日の夏休みの思い出だ。夏休みも後半になってくると、宿題の工作の必需品として「セメダイン」が活躍する。船や飛行機の模型を作ったり、筆立てや状差しなどの文具作りにと、この接着剤は欠かせなかった。チューブを絞ってしかるべき場所に塗り、手早く接着するには慣れとコツが必要だった。ぼやぼやしていると乾いて役立たずになるので、小さい子が扱うのはとても無理。学校の工作でも、セメダインを使うのは小学生だと高学年になってからだったと思う。だから、小さかった作者には、セメダインをこともなげに使える「兄」が羨ましかったのだろう。使う当人には手についてなかなか取れないで困るあの刺激臭すら、羨望の対象だったのだ。はるか昔の甘酢っぱくも懐しい夏の日々よ。作者は七十代の後半。この素敵なお兄さんは、ご健在だろうか。ところで、セメダインは接着剤の代名詞のように言われることが多いのだが、ホッチキスなどと同様に商標登録された固有名詞である。セメダインの語源はセメント(cement)と力を表す単位ダイン(dyne)による合成語で「強い接合、接着」という意味だ。しかし一説には創業当時、市場を独占していたイギリス製の接着剤「メンダイン」を市場から「攻め(セメ)出す」という意味でつけられたという話もあるそうだ。命名は1923年(大正十二年)のことだから、「攻め」の意が込められたとしても不思議ではないけれど。『斑猫』(2002)所収。(清水哲男)




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