August 0782003

 一振りのセンターフライ夏終る

                           八木忠栄

雲は湧き光溢れて、天高く純白の球今日ぞ飛ぶ……。さあ、甲子園だ。昨夏は何年ぶりかで観に出かけたが、今年は大人しくテレビ観戦することにした。掲句は「熱闘甲子園二句」のうちの一句で、もう一句は「夏雲の上に夏雲投手戦」とある。トーナメント方式だから、毎日、試合の数だけのチームが姿を消してゆく。投手戦など接戦の場合はともかく、ワンサイドゲームになったりすると、最終回には作戦も何もなく、次々とベンチに坐っていた控えの選手を登場させる。みんなに、甲子園の打席を味あわせてやろうという監督の温情からだ。句の選手も代打の切り札というのではなく、そうして出してもらった一人だろう。懸命に振ったが、無情にも平凡なセンターフライだった。この「一振り」で彼の夏は終わり、そしてチームの夏も終わったのだ。甲子園の観客は判官びいきが多いから、負けたチームにこそ暖かい拍手が送られる。「来年も、また来いよ」と、そこここから優しい声がかかる。このあたりにも、高校野球ならではの醍醐味がある。ほとんど、それは良質な「詩の味」のようだと、いつも思う。にもかかわらず、専門俳人はなかなか甲子園の句を作らない。何故なのか。そもそも野球の嫌いな人が多いのかどうかは知らないけれど、この「味」を、ただぼんやりと放っておくテはないだろう。もっともっと、甲子園を詠んでほしい。『雪やまず』(2001)所収。(清水哲男)




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