August 0282003

 豹つかひ夜は蚊を打ちて夫に寄る

                           橋詰沙尋

性が猛獣を手なづけるという芸は、古くから見られる。屈強な男よりも、かえってかよわい女性の芸としたほうが神秘的に写り、より魅力が増すからだろう。旅から旅へのサーカス暮らし。夫婦で一緒に働いてはいても、二人だけで過ごせる時間は短い。そんな一刻に、「蚊」を打つ仕草をきっかけとして「夫(つま)」に寄り添ったというのだ。ショーの仕事では「豹(ひょう)」を相手に鞭をしならせる手が、なにほどのものでもない蚊を打つという対照の妙。しかも、豹よりも蚊を打つほうにこそ、こまやかな神経を使っていると読ませる技術の冴え。想像句ではあろうが、嫌みのないリアリティが滲み出ていて楽しめる句だ。『俳諧歳時記・夏』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)

{ 読者情報 ] 作者は実際に曲馬団の団長だった方だそうです。山口誓子がどこかで書いていたと、お知らせ頂きました。
[ 夏休みのおまけ話 ] ◆ドイツのサーカス団◆ドイツのサーカス団から、40歳代後半の女性の猛獣使いが、ライオン8頭、トラ2頭を乗せたトラックごと団長の息子(20)と駆け落ちした。警察によると、この女性は、団長の息子にライオンの調教法を教えているうちに親密な関係になったとみられる。「ライオンやトラを操れるのなら、20歳の男性とも問題はないだろう…」と警察の広報担当者。団長は”窃盗”の損害は10万ユーロ(1300万円)になるとして警察に届けた(スポニチ大阪版・April 2003)。




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