July 1572003

 いちまいにのびる涼しさ段ボール

                           寺田良治

語は「涼し(さ)」。俳句では、暑さのなかに涼味を捉えて、夏を表現する。「月涼し」「草涼し」「海涼し」等々。多くの用例では、秋に入って身体に感じる涼しさとは違い、心理的精神的な涼しさの色が濃い。掲句も、その一つだ。その一つではあるけれど、いかにも現代的な涼しさを発見していて面白い。実際、押し入れや部屋の片隅に積んである段ボール箱は、見るだけで鬱陶しく暑苦しい感じがする。引っ越しのときの箱がいつまでもそのまんまだったりすると、苛々も手伝って、ことのほかに暑苦しい。最近では真っ白な段ボール箱も見かけるが、暑苦しいのは外見の問題じゃないのだ。なかの荷物の未整理への思いが、人の心をかき乱すのだからである。作者は、ようやくそんな段ボール箱の中身を取りだして整理しおえた。不要になった箱は、現今では、リサイクルのために「いちまいに」伸ばして出すことを義務づけている自治体がほとんどだろう。で、作者も丁寧に「いちまいに」伸ばしたのである。伸ばした経験のある読者ならばおわかりのように、あれは適度な紙の固さがあるので、実に簡単にきれいに伸びてくれる。紙封筒などを開いて伸ばすのとは、わけが違う。いままで暑苦しかった形状はどこへやら、たちまちすっきりと「いちまいに」伸びてくれる段ボールに、作者の気持ちもすっきりと晴れていく。そこに「涼しさ」を感じたというのであるが、むべなるかな。よくわかります。『ぷらんくとん』(2001)所収。(清水哲男)




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