June 2362003

 ハンカチをきつちり八つに折り抗す

                           後藤綾子

語は「ハンカチ」で夏。どのような状況で、誰に(あるいは、何に)対して「抗」しているのかは、わからない。が、作者の抗議の姿勢はよくわかる。普段は慣れもあって、なんとなく折り畳んでいるハンカチを、このときにはことさらに丁寧に「八つ折り」にした。意識的に、寸分の乱れもないように「きつちり」と折ったのだ。その必要以上の馬鹿丁寧さが、怒りをこらえた作者の心情を見事に具現している。感情を爆発させるのではなく内側に押しとどめ、相手が人間であれば、なおかつ相手にもわからせる仕草というものがある。押し黙ってこいつをやられると、相手にはだんだんボディブローのように効いてくる。女性に特有の遠回しの感情表現法とでも言うべきか。男としては、実にコワい。ところで話はころりと変わるが、欧米では日本のように、女性が手を拭いたり汗を拭うための実用的なハンカチは持ち歩かない。ヨーロッパではあくまでも洟をかむためのものだし、アメリカやカナダではそもそも最初から持つ習慣がない。私の番組の相棒だった女性がカナダ育ちで、あるとき不思議そうに「なんで、みんなハンカチ持ってるんですか」と聞かれて、思わず「えっ、君は持ってないの」と聞き返した覚えがある。掲句を翻訳するとしたら、日本のハンカチ使いの習慣を註記しておく必要がありそうだ。『綾』(1971)所収。(清水哲男)




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