May 1352003

 昂然と仏蘭西日傘ひらきけり

                           櫂未知子

まどきの男は「日傘」はささない(昔の関西では、中年以上の男もよくさしていた)ので、「ひらきけり」の主体は女性だ。ところで、開いたのは作者自身だろうか、それとも目の前の相手だろうか。ふつう「昂然と」は他者に用いる言葉だと思うけれど、この句では自分の気分に使われたと読むのも面白い。なにしろそこらへんの日傘とは違って、「仏蘭西(フランス)」製なんだもんね。周囲に人がいるかいないかに関わらず、これみよがしにさっと開く気持ちには、昂然たるものがあるだろう。いざ出陣という気分。これが目の前の相手が開いたとすると、どこか尊大に見えてイヤ〜な感じ……。どちらだろうか。いずれにしても、人が日ごろ持ち歩くものには、単なるツールを越えた意味合いが付加されている。愛着もあるしお守り的な意味があったり、むろん見栄を含む場合もある。掲句の主体が誰であるにしても、言わんとすることはそういうことだろう。日傘は、単に陽射しを遮れはいいってものじゃないんだ。掲句を読んですぐに思い出したのが、津田このみの一句だった。「折り合いをつけにゆく日やまず日傘」。これも良い句だ。この日傘もツールを越えて、防御用か攻撃用か、とにかく作者はほとんど武器に近い意味合いを含ませている。男で思いつく例だと、ニュースキャスターの久米宏がいつも持っているボールペン(かな?)がそうだ。彼はあれでメモをとるわけじゃない。そんな場面は一度も見たことがないし、そんな必要もない。でも、片時も手放さないのは、彼にはきっとお守りか武器の意味合いがあるからなのだろう。『蒙古斑』(2000)所収。(清水哲男)




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