April 2642003

 行く春やほろ酔ひに似る人づかれ

                           上田五千石

っかり花も散った東京では、自然はもう初夏の装いに近くなってきた。そろそろ、今年の春も行ってしまうのか。これからは日に日に、そんな実感が濃くなっていく。しかし、同じ季節の変わり目とはいっても、秋から冬へ移っていくときのような寂しさはない。万物が活気に溢れる季節がやってくるからだ。それにしても、寒さから解放された春には外出の機会が多くなる。花見をピークとして人込みに出ることも多いし、人事の季節ゆえ、歓送迎会などで誰かれと会うことも他の季節よりは格段に多い。春は、いささか「人づかれ」のする季節でもあるのだ。その「人づかれ」を、作者は「ほろ酔ひに似る」と詠んだ。うっすらと意識が霞んだような酔い心地が、春行くころの温暖な空気とあいまって、決して不快な「人づかれ」ではないことを告げている。ちょっとくたびれはしたけれど、心地のよい疲労感なのである。この三月で、私はラジオの仕事を止めたこともあって、普段の年よりもよほど「人づかれ」のする春を体験した。作者と同じように「ほろ酔ひ」の感じだが、もう二度とこのような春はめぐってこないと思うと、う〜ん、なんとなく寂しい気分もまざっている、かな。『俳句塾』(1992)所収。(清水哲男)




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