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March 1332003

 豚怒り大学校の春休

                           斎藤梅子

語として「春休」を扱っている歳時記は、意外に少ない。「夏休」「冬休」ほどには、ドラマ性がないからだろうか。学校や学生生徒が、いちばんぼおっとしているのも、春休みである。さて、掲句であるが、若い読者にはなぜ「豚」が出てくるのかは、わからないだろう。農学部あたりで飼育している豚かもしれないと思うのが、せいぜいだろう。無理もない。作者に聞いてみたわけではないけれど、私たちの世代であれば、たいていの人は「ははあん」と見当がつく。この句は間違いなく、1964年の東大の卒業式で、時の大河内一男学長が述べたはなむけの言葉の一節を踏まえている。曰く「太った豚よりも、痩せたソクラテスになれ」。その日の夕刊だったか、翌日の朝刊だったかに大きく報道され、ずいぶんと話題になったものだ。いまさら解釈の必要もないだろうが、時代は高度経済成長のトバ口にあったころで、経済優先の時代を生きていく若者たちへの、清貧を旨とする学長からの警告だった。その警告にもかかわらず……、と作者は言いたいのだ。当時の若者がこのザマでは、ダシにされた「豚」も怒って当然じゃないか。しかし当の「大学校」は、春休みなんぞに入って、のほほんと構えているばかり。作句時期は、1999年と記載されている。『八葉』(2002)所収。(清水哲男)




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