February 2522003

 仮の世をくしゃみの真杉花粉

                           汎 馨子

京あたりでも、そろそろ「杉花粉」が飛びはじめる。私の番組でも、来週から情報を入れることにした。幸い、私は花粉症にかからずに来たけれど、周囲では年々発症する人が増えているようなので、油断がならない。ひどい人の症状は、見ているだけで、こちらも苦しくなってくるほどだ。これからの季節、保健所は「外出を避けるように」と言うが、避けられるものなら、言われなくたって誰だって避けるさ。インフルエンザ流行のときにも同じことを言う。どうも保健所というところは、掲句ではないけれど、この世を「仮」と思い定めているようだ。さて、句の「真」は「まこと」と読む。この世を「仮」と思い定めてはいるものの、止めようにも止められない「くしゃみ」が、その強固な観念をもあっさりと裏切ってしまう。身体の調子が精神のそれを崩すという現象が、すなわち病気の一面であるわけだが、それも「くしゃみ」ごときにやられてしまうのだから、花粉症とは口惜しい病気だ。病状がまず「くしゃみ」となって現れるがゆえに、句は余計にアイロニカルに響いてくる。軽そうに見えて、しかし決して軽くはない苦い一句だ。お大事に。『未完童話』(2002)所収。(清水哲男)




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