February 2422003

 やはらかに裾出して着る春のシャツ

                           土肥あき子

意は明瞭。変哲もない句と言えばそれまでだが、「やはらかに」と「春」の付き過ぎを承知の上での作句だろう。付き過ぎが、かえって春を喜ぶ気分を上手に増幅している。そこらへんに、作者のセンスの良さを感じさせられた。男だと、なかなかこうは作れない。よほどの洒落男なら別だけれど、基本的に男の服装は「着たきり雀」に近いからだ。いかにスーツやネクタイを取っ換え引っ換えしようが、服の着方にまでは、そんなにバリエーションがあるわけじゃない。冠婚葬祭の服装のあり方からはじまるドレスコード的に言っても、女性のほうが、コードの種類ははるかに豊富である。これにはもとより、歴史的社会的なさまざまな要因がからんでくるわけだ。思い出したが、いわゆる「裾出しルック」が流行しはじめたころに、こんな笑い話が本当にあった。会社の応接室に通された中年のおじさんが、お茶を入れてくれた女性の裾が出ていることに気づき、見かねてタイミングを見計らい、小声でそっとささやいた。「出てますよ」。言った途端に、彼女は憤然として、しかし小声でささやき返したという。「流行ってるんです、いま」。当時はシャツまでは下着という感覚が一般的だったので、おじさんが見かねた気持ちもよくわかる。このエピソードに触れて以来、私は女性がどんな服装や着方をしていようとも、「流行ってるんだな、いま」と思うことに決めたのだった。俳誌「鹿火屋」(2003年1月号)所載。(清水哲男)




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