January 2912003

 雪兎わが家に娘なかりけり

                           岩城久治

雪兎
語は「雪兎」。盆の上に、雪でこんもりと兎の形を作ったもの。最近はあまり見かけなくなったが、単純な形なのに、とても愛らしい。目には南天などの赤い実を使い、青い葉で耳を、松葉でひげをあしらったりする。そんな雪兎を、作者が作ったのか、奥さんが作ったのか。眺めているうちに、ついに「わが家」には「娘」がいなかったことを、いまさらのように再確認したのだった。子供は、男ばかり。雪兎を作っても、何も言わない。いや、ちゃんと見たのかどうかもわからない。あ〜あ、女の子がいたら、「わあ、かわいい」と言ってくれただろうし、その様子こそが可愛らしかっただろうにと、嘆息しているのだ。逆にわが家は娘だけだから、また違った嘆息がなきにしもあらずだけれど、句はなかなかに人情の機微をよく捉えていて、地味ながら良い句だと思った。ついでに思い出したが、幼いころ、母がよく雪兎を作って小さな玄関に飾っていた。私は男の子だったから、やはり何も言わなかった。むろん、弟も。そして、父も。あのときの母もまた、やはり掲句の作者のように、喜んでくれる女の子がいてくれたらばと、ちらりと不満に思ったかもしれない。句は雑誌「俳句」に連載されている宇多喜代子「古季語と遊ぶ」に引用されていた作品。2003年2月号。図版は、菓舗「ふくおか」のHPに載っていた食べられる「雪兎」。つくね芋(関東では大和芋)をすりおろし、砂糖と上用粉(関東では上新粉)を加えて生地とし、餡を包んで蒸したものという。食べてしまうには、もったいないような……。(清水哲男)




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