January 1012003

 小倉百人かたまつてゆく寒さ哉

                           高山れおな

句の下敷きには、江戸後期の俳人・井上士朗の「足軽のかたまつて行く寒さかな」がある。しんしんと冷え込んでいる町なかを、最下級武士の「足軽(あしがる)」たちがおのずと身を寄せ合うようにして、足早に通りすぎていく。それぞれ、足袋もはいていないのだろう。見ているだけで、厳しい寒さがひとしお身にしみる光景だ。対して、作者は足軽を「小倉百人」にメンバー・チェンジしてみた。『小倉百人一首』に登場する錚々たる作者の面々だ。男七十九人、女二十一人。僧侶もいるが、おおかたはやんごとなき王朝貴族だから、冬の身支度も完璧だ。一堂に会すれば、さぞや壮観だったと思われるが、作者は苦もなく百人を冬の町に放り出している。そこでさて、彼らはどんな行動に出るのだろうか。と見ていると、やはり寒さには勝てず、「かたまつて」歩きはじめたというのである。それでなくとも、日ごろは「オレが」「ワタシが」と自己主張が強くプライドの高い面々だけに、仕方なく身を寄せ合って歩く様子は可笑しみを誘う。寒気のなかでは、足軽も貴族もないのである。ところで、私の愛誦する歌の作者は、集団のどのあたりにいるのだろうか。そんなことも思われて、すっかり楽しくなってしまった。『ウルトラ』(1998)所収。(清水哲男)




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