December 10122002

 雪は来でから風きほう空凄し

                           河合曽良

語は「から風(空風)」で冬。句のように、雪や雨をともなわない、乾いた山越しの強い北風のこと。昔から、上州(群馬県)や遠州(静岡県西部)の名物として知られる。こいつにまともに吹かれると、目もなかなか開けていられず、口の中には砂が入ってジャリジャリする。それよりもなによりも、寒さも寒し。身を切られるようである。思わず空を見上げれば、誰でも曽良と同じように「凄し」と感じるだろう。ただ、この「凄し」という措辞に句の命があるのだけれど、昨今では「凄い」がいささか安売り気味なので、私たちの感受性が作者の実感にぴったり重なるかどうかは心もとない。何かにつけて、いまは「凄い」「すげえ」「すんご〜い」が連発されている。元来の「凄い」は、心に強烈な戦慄や衝撃を感じさせる様子をいうのだから、昔の人はめったなことでは「凄い」とは言わなかったはずだ。そんなに、そこらへんに「凄い」と感じることなど転がってはいなかった。その意味からすると、タレントが逆立ちして歩いたくらいで「すんご〜い」と言うのは、いかがなものか。そうした「すんご〜い」を聞いただけで、他人事ながら赤面しそうになる。言葉の意味を軽く使うことを一概に否定するつもりはないけれど、いまどきの「凄い」のあまりの軽さは、それこそ「すごすぎない?」でしょうか。(清水哲男)




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