September 0392002

 虫の夜の星空に浮く地球かな

                           大峯あきら

語は「虫」で秋。秋に鳴く虫一般のことだが、俳句で単に「虫」といえば、草むらで鳴く虫たちだけを指す。鳴くのは、雄のみ。さて、天には星、地には草叢にすだく虫。作者は、まことに爽やかかつ情緒纏綿たる秋の夜のひとときを楽しんでいる。星空を見上げているうちに、自分がいまこうして存在している「地球」もまた、あれらの星のように「空」に浮かんでいるのだと思った。すると、作者の視座に不思議なずれが生じてきた。地球をはるかに離れて、どこか宇宙の一点から星空全体を眺めているような……。この視座からすると、たしかに地球が遠くで青く光る姿も見えてくるのである。となれば、虫たちは地球上の草叢ではなくて、いわば宇宙という草叢全体ですだいている理屈になる。つまり、作者には庭先の真っ暗な草叢が、にわかに宇宙的な広がりをもって感じられたということだろう。一種の錯覚の面白さだが、はじめて読んだときには、ふわりと浮遊していく自分を感じて、軽い目まいを覚えた。それは、地球が空に浮いているという道理からではなく、草叢がいきなり宇宙空間全体に拡大されたことから来たようだった。『夏の峠』(1997)所収。(清水哲男)




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