August 2482002

 仔馬爽やか力のいれ処ばかりの身

                           中村草田男

語は「爽(さわ)やか」で秋。天高し。「仔馬」が飛び跳ねるようにして、牧場を駆け回っている。加減などせずに、全力で遊んでいる様子は、いかにも爽やかだ。見ていると、脚といい首といい胴といい、全身の筋肉という筋肉が使われているようだ。それを「力のいれ処(ど)ばかりの身」と押さえたことにより、躍動する仔馬の存在が生き生きとクローズアップされた。涼しそうな爽やかさではなく、汗を感じながらの爽快感が詠まれている。いかにも、力感のこもった草田男らしい表現と言うべきか。ところで、同じ馬の爽やかさを詠んだ句でも、山口誓子の「爽やかやたてがみを振り尾をさばき」は対照的だ。こちらは大人の馬だから、動作に落ち着きがある。もはや仔馬時代のように無駄な筋力を使うこともなく、悠々と闊歩している。競馬場のサブレッドか、乗馬用に飼育されている馬だろう。その汗一つ感じさせない洗練された動きが、ことに「尾をさばき」から伝わってくる。なるほど、爽やかな印象だ。かつての私の身近には、農耕馬しかいなかった。彼らはいつもくたびれた様子で首を垂れており、お世辞にも爽やかさを感じたことはない。でも、仔馬のときにはきっと草田男句のように元気だったのだろう。そう思うと、やりきれない気分になってくる。両句とも『合本俳句歳時記・新版』(1988・角川書店)に所載。(清水哲男)




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