July 3072002

 撫し子やものなつかしき昔ぶり

                           正岡子規

語は「撫子(なでしこ)」で秋。秋の七草の一つだが、七月には開花するので、現実的には夏の花でもある。前書に「陸奥の旅に古風の袴はきたる少女を見て」とあって、作句は明治二十六年(1893年)だ。女性用の袴には大別して二種類あり、キュロット状のものとスカート状のものとに分けられる。明治中期の東京の女学生の間では、いまの女子大生が卒業式などに着用するスカート状の袴が一般的になっており、それまでのキュロット・スタイルはすたれていた。スカート型(形状から「行灯袴」と言ったようだ)のほうが、裾さばきを気にしないですむので、断然活動的だったからだろう。ところが旅先の陸奥で見かけた少女は、まだ襠(まち)のある古風な袴をはいていた。そこで「ものなつかしき昔ぶり」と詠んだわけだが、近辺に咲いていた撫子と重ね合わせることで、古風で可憐な少女の姿を彷彿とさせている。このときに、作者にとっての少女は、すなわちほとんど撫子そのものなのであったろう。ハイカラな東京の女学生には見られない、凛とした気品も感じられる。句から吹いてくる、涼しい野の風が心地よい。高浜虚子選『子規句集』(1993・岩波文庫)所収。(清水哲男)




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