July 0372002

 羅に透けるおもひを怖れをり

                           櫛原希伊子

語は「羅(うすもの)」で夏。絽(ろ)、紗(しゃ)など、絹の細い繊維で織られた単衣のこと。薄く、軽やか。女性ものが多い。作者自註、「たいした秘密でないにしても、知られたくないこともあるもの。透けるとしたら絽よりも紗の方があやうい気がする」。肌や身体の線が透けることにより、心の中までもが透けて見えてしまいそうだというこの感覚は、まず、男にはないものだろう。俳句を読んでいると、ときおりこうしたさりげない表現から、女性を強く感じさせられることがある。作者は別に自分が女であることを強調したつもりはないと思うが、男の読者は「はっ」とさせられてしまうのだ。逆に意識した例としては、たとえば「うすものといふをはがねの如く着て」(清水衣子)があげられる。薄いけれども「はがねの如く」鋭利なのだよと言うのだが、むしろこの句のほうに、作者の心の内がよく見て取れる面白さ。いずれにしても、女性でなければ発想できない世界だ。前述したように、本来「羅」は和装衣を指したが、最近では夏着一般に拡大して使うようになってきた。小沢信男に「うすものの下もうすもの六本木」がある。この女性たちに、掲句の味わいというよりも、発想そのものがわかるだろうか。私としては、問うを「怖れ」る。『櫛原希伊子集』(2000)所収。(清水哲男)




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