June 3062002

 梅雨荒川酒の色して秩父より

                           久保田慶子

強く、そして美しい句。ポイントは「酒の色して」だが、この酒は濁(にご)り酒だろう。梅雨のさなか、茫々たる「荒川」に見る水の色はさもありなんと思わせる。はるかな秩父の山中に発し、長い道程を経て初発の色から大きく変化した川水の色は、なまなかな形容では捉えきれまいが、はっしと「酒の色」と言い止めた作者の炯眼には感心させられるのみ。おのずから発酵し熟成した水を指し示した比喩の確かさは、どうだろう。堂々たる貫録のある句だ。こんなふうに風景を見ることができたなら、どんなに心豊かな時を過ごせるだろうかと、作者の感受性がうらやましい。以下、荒川の水脈については、電子百科事典による。「関東山地、奥秩父(おくちちぶ)主峰甲武信(こぶし)ヶ岳(2475メートル)に源を発し、奥秩父全域の水を集めて、秩父盆地、長瀞(ながとろ)を経て、寄居(よりい)町で関東平野に出る。熊谷(くまがや)市久下(くげ)で流路を南東に変え、さいたま、川越(かわごえ)両市の間で入間(いるま)川をあわせ、戸田(とだ)市付近で東に転じて埼玉県と東京都との境をなす。東京都北区の岩淵(いわぶち)水門で支流の隅田(すみだ)川と本流の荒川に分かれて東京湾に注ぐ。延長169キロ、流域面積2940平方キロの関東第二の大河川である。(C)小学館」。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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