June 1762002

 薔薇園一夫多妻の場を思ふ

                           飯田蛇笏

語は「薔薇(ばら)」で夏。句の「薔薇園」は「そうびえん」と読ませている。我が家からバスで十分ほどのところに神代植物公園があって、ここの薔薇園は有名だ。シンメトリックに設計された沈床式庭園に、約240品種5,000余本の薔薇が植えられている。たまに見に出かけるが、あまりの花の数に圧倒されて、いつも疲れてしまう。この句がどこの薔薇園を詠んだものかは知らないけれど、華麗なれどもいささか鬱陶しい感じを「一夫多妻」と言ったのだろう。蛇笏というと、冷静沈着にして生真面目な人格を連想してしまうが、こんなユーモラスな一面があったのかと嬉しくなった。たしかに薔薇園の薔薇は、互いに妍を競い芳香を競っているかのようだ。そういえば、薔薇の名前にはクレオパトラなどの女性名が多い。神代には、マリア・カラスなんて品種もあった。それにしても、人の想像力にはへんてこりんなところがありますね。私など薔薇に女性を感じてはいても、一夫多妻とまでは思いも及ばなかった。言われてみてはじめて、なるほどと感心するばかり。ちなみに、逆に薔薇を男だと言ったのは、たしかサトウ・ハチローだったと思う。うろ覚えだが、♪きれいな花にはトゲがある、きれいな男にゃ罠がある、知ってしまえばそれまでよ、知らないうちが花なのよ……と、男に騙された女を描いた。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所収。(清水哲男)




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