May 2352002

 明易き絶滅鳥類図鑑かな

                           矢島渚男

オオウミガラス
語は「明易し(あけやすし)」で夏。これから夏至にむかって、どんどん夜明けが早くなっていく。伴って、鳥たちの目覚めも早く、住宅街のわが家の周辺でも、最近では五時前くらいから鳴くようになった。カラスがいちばん早く、あとから名前も知らない鳥たちが鳴き交わすので、鳴き声に起こされることもある。作者は、長野県丸子町在住。私などのところよりも、よほど多くの鳴き声が聞こえるだろう。さて、そんな鳥たちに早起きさせられた作者は『絶滅鳥類図鑑』を見ているのだが、鳥の鳴き声を聞いたので図鑑を手にしたわけではないだろう。むしろ、昨夜寝る前にめくっていた図鑑が、そのまま机上に残されていたと解釈しておきたい。就寝前に、絶滅した鳥たちの運命に思いをめぐらした余韻がまだ残っているなかで、現実に生きている鳥たちの元気な鳴き声と出会い、複雑な感慨にとらわれているのだ。あらためて図鑑の表紙を凝視している作者には、昨夜はむしろ絶滅した鳥たちのほうが近しかった。それが寝覚めの半覚醒状態のなかで、徐々に現実に引き戻されていく過程を書いた句だと読める。引用した図は、19世紀イギリスの剥製師ジョン・グールドが描いた「オオウミガラス」。北大西洋に住んでいた海鳥だが、人間が食べ尽くして絶滅したという。『梟のうた』(1995・ふらんす堂)所収。(清水哲男)




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