April 0642002

 入学児脱ぎちらしたる汗稚く

                           飯田龍太

て、週明けの八日月曜日には、多くの小学校で入学式が行われる。人生でいちばん誰もが学校好きであるのは、この時期の子供らだ。つい最近、福田甲子雄氏から、労作『蛇笏・龍太の山河』(山梨日日新聞社)をご恵贈いただいた。むろん当方は福田さんの作品を存じ上げているのだが、一度もお目にかかったことはない。しかし、当歳時記の存在をご存知の上でのことだろうと思った。ありがたいことです。副題に「四季の一句」とあるように、長い間師事された蛇笏と龍太の句を十二ヶ月に分類して、一句ずつに短い鑑賞文をつけておられる。掲句の観賞は、次のようだ。「近ごろ小学校の入学式は四月一日と限らないようだが、この句の時代は一日と決まっていた。入学児童が家に帰り早速、服やズボンを脱ぎちらし解放感を味わう。その衣服から幼い汗の匂い。『稚く(わかく)』の把握に感性の資質を見る。昭和26年作」。忘れていた。となれば、私の戦時中の入学も四月一日だったのか。覚えているのは、校庭で記念の集合写真を撮るときに、机だったか椅子だったか、その上に乗ったときにグラグラして「いやだなあ」と思ったことだけだ。それはともかく、子供の汗の匂いで入学を寿ぐ作者の気持ちは、素直に受け止められる。誰も書かなかったことだけれど、むしろ人の親ならば誰しもが実感する嬉しい気分だと思う。それをこのように表現するか、どうか。なるほど「感性の資質」から出たと言うしかない句かもしれない。(清水哲男)




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