April 0142002

 万愚節ともいふ父の忌なりけり

                           山田ひろむ

ール・フールズ・デイ。訳して、すなわち「万愚節(ばんぐせつ)」。人間、みんな馬鹿である日。直截に「四月馬鹿」とも。いろいろな歳時記をひっくりかえしてみても、例句は多いのだが、面白い句は少ない。馬鹿を真面目に考えすぎてしまい、つい「まこと」などと対比させたりするからだろう。なかで掲句は、出色だ。実は二年前の今日にも採り上げた句なのだが、当時と違う感想を持ったので、再掲載することにした。命日だから、作者は父親の在りし日のことどもを自然に思い出している。思い出すうちに、その思いを通じて、人の生涯とは何なのかと、漠然とそんなところに思いが至る。そういえば、今日は「万愚節」。「ともいふ」という軽い調子が実に効果的で、父親の忌日の厳粛さをひょいと相対化してみせている。人はみな愚かなのであり、父親もそうだったのであり、そしてもとより我もまた……。作者の泣き笑いめいた心情が、よく伝わってくる。どこか可笑しく、それ以上にどこか哀しい句だ。ところで、四月一日に亡くなった俳人に、西東三鬼がある。1962年没。すかさず、石田波郷は「万愚節半日あまし三鬼逝く」と詠んだ。渡辺白泉は「万愚節明けて三鬼の死を報ず」と、乗り遅れた。両者の句も悪くはないが、掲句の醸し出す情感のこまやかさにはかなわない。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)




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