February 1322002

 菜の花畑扉一枚飛んでいる

                           森田緑郎

渡すかぎり一面の「菜の花畑」。日本では多く水田の裏作として栽培されていたが、最近では見かけなくなった。まだ、どこかにあるのだろうか。「菜の花畑に入り日薄れ」と歌われる『朧月夜(おぼろづきよ)』は1914年(大正3)の小学校唱歌。作詞者の高野辰之は長野県の出だ。昨年、ドイツに住む娘が、走行中の車から撮影して送ってくれた写真には唸らされた。ヨーロッパのどこの国かは忘れたが、とにかく行けども行けども黄色一色、黄色い海なのだ。あれほどの黄色の中に埋もれてまじまじと眺めやれば、掲句のようなイリュージョンもわいてくるに違いない。「いちめんのなのはな」に牧歌性を認めつつも、ついには「やめるはひるのつき」と病的なイメージを描いたのは山村暮鳥だった。どこからか「扉一枚」が吹っ飛んできて、上空に浮かんで走っている。どこまで飛んでいくか。しかし、どこまで飛んでも、やがては落ちてくる。そこらへんの菜の花をなぎ倒すようにして、物凄い速さで落下してくるだろう。そんな恐怖感も含まれているのではなかろうか。この句には英訳がある。「Field of flowering rape--/one door sailing in the sky.」。『多言語版・吟遊俳句2000』(2000)所載。(清水哲男)




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