January 3012002

 米磨げばタンゴのリズム春まぢか

                           三木正美

歳時記では「春近し」に分類。いかにも軽い句だけれど、あまり仏頂面して春を待つ人もいないだろうから、これで良い。四分の二拍子か、八分の四拍子か。気がつくと「タンゴのリズム」で「米を磨(と)」いでいた。たぶん、鼻歌まじりにである。なるほど、タンゴの歯切れの良い調子は、シャッシャッと米を磨ぐ感じに似あいそうだ。想像するに、作者は直接手を水につけて磨いではいないようである。何か泡立て器のような器具を使っていて、それがおのずからシャッシャッとリズムを取らせたのだろう。手で磨ぐ場合には、そう簡単にシャッシャッとはまいらない。そんなことをしたら、米が周囲に飛び散ってしまう。子供時代の「米炊き専門家」としては、そのように読めてしまった。ちなみに作者は二十代だが、私の世代がタンゴを知ったのは、ラジオから流れてきた早川真平と「オルケスタ・ティピカ・東京」の演奏からだ。アルゼンチン・タンゴを、正当に継承した演奏スタイルだったという。でも、歌謡曲全盛期の私の耳には、とても奇異な音楽に思えたことを覚えている。いつだったか辻征夫に「『ラ・クンパルシータ』って、どういう意味なの」と聞かれても、答えられなかったっけ。ま、私のタンゴはそんな程度です。「俳壇」(2001年4月号)所載。(清水哲男)




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