January 1812002

 日脚伸ぶ卓に就職情報誌

                           山本ふく子

代一景。季語は「日脚伸ぶ(ひあしのぶ)」で冬。太陽の東から西への動きが「日脚」だ。冬至を過ぎると徐々に昼の時間が伸びてくる理屈だが、それが実感されるのは、暦の上では春も間近い今頃くらいからだろう。「こんな時間なのに、まだ明るい」と思うことがある。なんとなく嬉しくなったりする。作者もおそらくはそんな気持ちになったのだろうが、ふと卓上を見ると「就職情報誌」が置いてある。置いたまま外出したのは、この春に卒業する高校生か大学生の子供だろうか。いずれにしても、職を求めている家人がいるのだ。年が改まっても、まだ就職先が決まらないとなると、当人はもとより親としても大いに気がもめる。心配である。このときに作者は、あらためてまじまじと「就職情報誌」の表紙を見つめたにちがいない。こうなると、逆に「日脚伸ぶ」の季節の到来が恨めしくも感じられてくる。一般的には明るいイメージの季語「日脚伸ぶ」に瞬時不安の影を落とすことで、句としては見事に定まった……。しかし、このお子さん、その後無事に就職することができただろうか。時代が時代ゆえに、後を引く句だ。金曜句会合同句集『すみだ川・第二集』(2002)所収。(清水哲男)




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