December 09122001

 それがまた間違いファクス十二月

                           小沢信男

人との会話を、そのまま句にしている。我が家でもそうだが、「ファクス」が届くと「誰からだった?」と聞かれたり聞いたりする。そこで作者は「それがまた間違いファクス」でね、やっぱり「十二月」だなあ、忙しいので間違えちゃうんだよ、と……。古来、当月のあわただしさはいろいろに表現されてきたが、掲句はそれをさらりと現代風にとらえてみせている。そう言えば、ちょうど今頃だ。数年前に届いた「間違いファクス」に、あわてふためいたことがある。旅行会社からで、正規の受取人にとっては急を要する内容だった。受取人は海外ツァーのキャンセル分を申し込んでいたらしく、文面にはキャンセルが出たので三日後の出発が可能になったとある。ついては、折り返し至急返事を寄越すようにというのだけれど、これには弱りましたね。間違いなのだから他人事なのだからと、冷たく放ってはおけない。正規の受取人に連絡しようにも、名前しかわからないのでお手上げだ。ならば旅行会社にと、よくよく見ても、肝心の会社名や電話番号のあたりがかすれてしまっていて、判読できない。ようやく発見した手がかりは、送信文の上のほうににつけられていた会社のファクス番号とおぼしき数字であった。これっきゃないと、そこに間違いの旨を送信しておいたのだが、正規の受取人は果たしてちゃんと旅行に行けただろうか。旅行会社からは、ウンでもなければスーでもなかった。『足の裏』(1998)所収。(清水哲男)




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