December 03122001

 本漁ればいつも青春肩さむし

                           古沢太穂

者、六十代の句。と、いま調べて書いて、私もその年代なのだと思い知る。六十年余も生きてくると、いろいろな場面で年齢を感じることが増えてくるが、なるほど、私も本屋にいるときは年齢のことなどすっかり忘れてしまっている。青春時代と同じように、そのころに習得した自分なりのやり方で本を漁(あさ)る自分がいる。たいていの町の本屋は、寒い日でも店を開け放っているもので、感じる肩の寒さも若き日と同じようだ。肩をすぼめながらも、棚を眺める好奇心の熱は冷めないのである。なぜか「青春は美し」という、それこそ本の題名で知った言葉を思い出した。いまはもう誰も読まないヘルマン・ヘッセだ。句とは離れるが、私は本屋のない田舎で育った。中学二年で大阪は茨木市に引っ越したときに、はじめて本屋というところに入ることができた。忘れもしない、虎谷書店。健在だろうか。嬉しくて、日参しましたね。高校時代には、立川のオリオン書房、福生の田村書房と岩田屋。大学のときは、京都の三月書房、ナカニシヤ。まだ木造だったころの新宿の紀伊国屋書店。棚の本の配列をそらんじるほどに通いつめ、といっても金がないのでそんなに買えるわけもなく、もっぱら立ち読み専門の青春でした。なかで店のご主人と親しくなったのは、岩田屋と三月書房。岩田屋の奥さんは、たまに立ち寄らない日があると、必ず「何かあったの」と心配してくれたっけ。だから、岩田屋でどうしても立ち読みできなかった雑誌の一つに「奇譚クラブ」がある。『火雲』(1982)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます