November 17112001

 焚火爆ズ中ニ軍律読ミ上ゲシ

                           新海あぐり

語は「焚火(たきび)」で冬。いまはダイオキシンが何とやらで、焚火もままならない。イヤな世の中です。ところで、こういう句に私は弱い。いざ、出陣である。火は人の闘争心を掻きたてる。寒いからだけではなくて、ばんばんと火勢を強めることで士気が鼓舞される。だんだん、みんなの目がギラギラしてくる。そこでやおら首領格が、しずかに諭すように「軍律(ぐんりつ)」を読み上げる。戦闘に際しての心構えは簡単にすませ、後は戦いに無関係な者への配慮であるとか、裏切り者への対処法であるとかと、かつての中国赤軍もかくやと思わせるような「仁義」が諄々と説かれていくのだ。焚火が爆ぜてむせ返るのだが、寂として声無し。そのうちに、闘争心は次第に冷たくも逆上する青い炎のように変化していく。落ち着いてくる。「秩父困民党」に取材した連作の一句であるが、片仮名を使って(「軍律」表記に通じて)、見事に蹶起する直前の農民の雰囲気を写している。かつての私も、身をもって似たような場面にいたことがある。このことについて知る人は少ないと思っていたら、ずっと後になって、長崎浩が「日本読書新聞」に書いた「評価」を読むことになった。でも、焚火は暢気なほうがよいに決まっている。♪たき火だ たき火だ おちばたき。巽聖歌の詩のほうが、天と地ほどによいに決まっている。作曲者の渡辺茂は、娘が小学生のときの先生だった。お元気でしょうか。『悲しみの庭』(2001)所収。(清水哲男)




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