October 07102001

 男は桃女は葡萄えらびけり

                           大住日呂姿

っはっは、コイツはいいや。愉快なり。ナンセンス句とでも言うべきか。無内容だが、その無内容に誘いこむ手つきが傑作だ。縦書きで読んだほうがよくわかると思うが、「男は桃」と出て「女は葡萄」と継ぐ。ここで読者を、いったん立ち止まらせようという寸法だ。読み下しながら「ん?、どういうことかな」「『桃女』かもしれないな」「何の比喩かな」などと、読者の頭のなかでは、いろいろな想像が働きはじめる。いやでも、そこで一呼吸か二呼吸かを置かされてしまう。で、下五にはしれっと平仮名で「えらびけり」と来た。ここに「選びけり」と漢字が混じると、効果はない。「男」「桃女」「葡萄」といっしょに、最初から「選」も目に入ってしまうからだ。また縦書きのほうが、平仮名の効果をあげるためには、句全体が目に入りにくいので有効だと思う。とにかく「やられた」というか「こんにゃろう」というか、ここで読者のせっかくの想像世界は実に見事に裏切られることになる。何故こんなメにあうのかというと、性と果物の取り合わせはしばしば何かの暗喩として用いられることを、私たちが知っているからだろう。だから、つい想像力をたくましくしたくもなるのだ。が、そんな教養やら常識やらの踏み台を、いとも簡単にすっと外されたので、コロっとこけちゃったというわけ。今日もいい天気。『埒中埒外』(2001)所収。(清水哲男)




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