October 02102001

 冬瓜を提げて五条の橋の上

                           川崎展宏

語は「冬瓜(とうがん)」で秋。秋に熟すのに何故「冬の瓜」と言うのか。冬期までよく品質を保つことかららしいが、ややこしいネーミングだ。昔の我が家でも栽培していたが、南瓜や西瓜とは違い、もっとでっかいのだけれど、のっぺらぼうで頼りない感じがした。味もまた頼りなく、全体的にヌーボーとした感じの瓜である。さて「五条の橋の上」というと、もちろん伝説的な牛若丸と弁慶の出会いの場である。弁慶は長い薙刀(なぎなた)を持ってこの橋で待ちかまえ、牛若丸は笛を奏でながら通りかかるという寸法だった。そんな伝説を頭にして、作者は橋を渡っている。弁慶か牛若丸の気分だったかもしれない。と、向こうからやってきたのは、なんと大きな「冬瓜」を、重そうによたよたと提げた人だった。これでは、弁慶も牛若丸もあったものじゃない。そんな拍子抜けの気分を、巧みに捉えたユーモラスな句だ。何を隠そう(と気張ることもないけれど)、私が京都の大学に入ることになって、真っ先に見に行ったのが「五条の橋」だった。やはり伝説の現場が見たかったのだが、何のことはない普通の橋でしかなく、がっかりした記憶がある。もちろん橋の位置が、秀吉によって牛若丸の時代より下流にずらされたことなども、露知らなかった。大昔の五条通は、現在の松原通であるという。『夏』(1990)所収。(清水哲男)




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