September 0992001

 秋まつり雨ふつかけて来りけり

                           久保田万太郎

ムラノチンジュノカミサマノ、キョウハメデタイオマツリビ、……。いまの音楽教科書には載ってないそうだが、「秋祭」といえば絢爛たる都会の祭よりも、この素朴でひなびた味わいの「ムラマツリ」のほうがふさわしい。そんな村祭を見物している途中で、パラパラッと雨が降ってきた。この季節には、よくあることだ。天を仰いでしかめ面をする人もいるだろうが、作者はこれも風情のうちさと機嫌がよろしい。「ふつかけて」という威勢のよい表現に、それがうかがえる。おそらくは神輿(みこし)見物の最中で、担ぎ手の威勢の良さに触発された措辞だと思う。巧みな句だ。ウメエもんだ。昨日今日と、我が町でも遠く三鷹村以来の伝統的な「オマツリビ」である。天気予報によると、少しは「ふつかけ」られるかもしれない。見物する側は万太郎のように風情を楽しめばよいのだが、神輿の管理者は渋い表情になる。とりわけて白木の神輿が雨水を吸い込むと、後の手入れが大変だと聞いた。乾くのに三日はかかり、しかも造作はガタガタになる。最初から雨降りならばビニールシートで覆うそうだけれど、渡御(とぎょ)の途中ではそうもいかない。そういう立場の人が掲句を読んだら、ますます渋い表情で即座に「冗談じゃねえや」と吐き捨てることだろう。『新日本大歳時記・秋』(1999)所載。(清水哲男)




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