September 0192001

 越中八尾二百十日の月上げし

                           渡辺恭子

日は立春から数えて「二百十日」目。大風(おおかぜ)がおこりやすい頃で、ちょうど稲の開花期にあたることから、農家では風を恐れて「厄日」とした。俳句で「厄日」といえば「二百十日」を指し、したがって「厄日」も秋の季語である。掲句の「八尾(やつお)」は富山県八尾町のことで、近年とみに有名になってきた越中「風の盆」の夕景を詠んでいる。風の神をしずめる風祭と盂蘭盆の収めの行事が合体した「風の盆」は、越中に限らず各地で行われる。そんななかで、ここに人気が集まっているのは、歌われる「越中おわら節」のポピュラリティもさることながら、伴奏に胡弓が使われるところにあるのだろう。私はテレビでしか見たことはないけれど、あの哀調を帯びた調べは、それでなくとも物悲しくなる秋の心に染み込んでくるようだ。今宵の月は、ほぼ真ん丸。晴れていれば、掲句とぴったりの情景のなかで、胡弓の音は夜を徹して冴え渡る。最近はマナーの悪い観光客に悩まされているという話しも聞くが、おだやかな三日間(祭りは今日から九月三日まで)であってほしい。間もなく、秋の農繁期が訪れる。『合本俳句歳時記』(1974・角川書店)所載。(清水哲男)




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