August 2182001

 野分きし翳をうしろに夜の客

                           大野林火

の草を吹き分ける風だから「野分(のわき)」。古くは台風とは違って荒い風が主体とされたけれど、現代では秋台風のことも含めて詠まれているようだ。この句も、そうだと思う。台風が接近中にもかかわらず、律儀にも約束通りに訪ねてきてくれた「夜の客」。招き入れるために玄関を開けると、客の「うしろ」には、すでに台風の近づいてきた「翳(かげ)」がはっきりと感じ取れる。風も雨も、だんだん激しくなってきた。よくぞ、こんな夜に訪ねてくださった。こういうときには、普段の訪問客よりもよほど親密度が増すのが人情で、作者は気象の変化を気にしながらも、大いに歓待したにちがいない。句とは何の関係もないが、昔の編集者の暗黙のハウツーの一つに、なかなか書いてくれない執筆者宅は、荒天を選んで訪ねよというのがあった。手の込んだ泣き落とし戦術であるが、先輩編集者は実にこまめに嵐だとか大雪の中を歩き回っていたことを思い出す。私にはそんな根性はさらさらないので、オール・パス。ついでに、出勤すらパスすることも再三だった。さて、閑話休題。大型で強い台風11号が近寄ってきた。東京も変な空模様。気象情報で出る「警報」は、生命に関わる可能性が高いという警告を含んでいる。通過地域にお住まいの諸兄姉には、今日だけはできるかぎりオール・パスで過ごしていただきたい。どんな被害も、これっぽっちも出ませんように……。『大歳時記・第二巻』(集英社・1989)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます